徘徊演習

山道を30キロ徘徊したら、正確に測定でき、地図に表示されるか

「徘徊演習」とは、過去の徘徊事例やお客様の声等を参考に、様々な環境や状況下での測位精度の検証や再現、またGPSで測位した位置情報が地図上にどう表示されるか等を実験し、その結果を認知症徘徊GPSセンターのホームページで公開することでお客様の参考にいていただいたり、私たち自身の改善にも役立てています。そしてこの「徘徊演習」で意識していることは、実際に起こりうる環境や状況を再現するということ。何故なら、認知症による徘徊は10分の場合もあれば、1時間、3時間、半日、1日等ということもあり、さらには徒歩や電車、バス等の移動手段の違いや市街地や郊外による違い、天気や周辺環境等、様々な環境や状況下での徘徊が考えられるので、認知症徘徊GPSセンターの「徘徊演習」も自らの足で実際にGPS端末を持って徘徊しています。

2018年6月に知症徘徊GPSセンターのホームページで公開した「参考事例(警察との連携によるGPS探索) 」では、昔から自宅近くの山道を散歩コースとしていた高齢者が、自宅に戻る時間が遅くなったり、戻れないことがあったことから、ご家族が心配し、再度の徘徊に備え「認知症徘徊GPSセンター」のサービスを利用していただきました。GPS端末の充電や玄関の環境整備等(靴底にGPS端末が入る専用靴だけを玄関に置き、その他の靴は置かない等)をご家族と訪問介護のヘルパーさんと連携しながら、外出時にはGPS端末が入った靴を確実に履いてもらい、本人が外出(散歩)するときにはその靴を履く環境を整えていました。サービスを利用してしばらくすると、GPS端末の位置情報で山中に入ったことをご家族が確認し、近くに住む家族が駆け付けたものの、家族だけでの捜索は難しいと判断して警察に通報し、警察や消防、消防団等と捜索が開始されました。その2時間後、あたりが暗くなりはじめたとき、無事保護されました。これを契機に認知症徘徊GPSセンターは山中での徘徊にも対応できるよう位置情報に緯度経度を表示させるなど様々な改善をし、また今後の改善に役立つ「徘徊演習」を開始しました。

さて、毎度前置きがは長くなりますが、前回の演習では、「1週3キロの周回コースを徘徊したら、地図にはどう表示されるのか」を行い、北海道函館市にある「五稜郭公園」の星形五角形のような地図表示になりました。今回は、「徘徊演習」では初の「山!」での徘徊を想定し、山道を30キロ徘徊してみて、認知症徘徊GPSが正確に測定でき、地図に表示されるかなど、登山未経験の事務局員が、無謀ともいえる徘徊演習を実施してきました。

いつ、どの山で、どのコースで、何時間認知症徘徊演習をしようかと考えたときに、登山経験がない事務局員一人が、山で迷子(遭難?)になったらしゃれにならないと考え、インターネットで情報収集をしていると東京都青梅市で山を何と2,000人で走るトレイルラン(未舗装路の登山道やハイキングコースを走ることをトレイルランニングというそうで)というものを発見し、これなら登山経験がない事務局員でも迷子にはならないだろうと考え、その名も「青梅高水国際トレイルラン」に申し込みをしました。15キロと30キロの2つのコースがありましたが、柴又100Kマラソンに便乗した徘徊演習「東京都から茨城県の江戸川沿いを100キロ徘徊した場合でも、正確に表示されるか」も奇跡的に完走できたし、どうせなら30キロで徘徊演習だ!と考え、30キロコースにエントリーしました。ハイキング気分でルンルンの事務局員でしたが、青梅高水国際トレイルランの約3週間前、社内のマラソンの達人から「怪我に気を付けて。装備も重要。多分フルマラソンよりきついです!」と連絡がきました。「フルマラソンよりきつい?え、本当に?」ということで、もう一度ホームページで確認すると「上級者部門 難易度★★★★★ / 中級者部門 難易度★★」、インターネットでの口コミでも、「超つらい」「急登でキツイ」「制限時間ギリギリ」「捻挫した」、あれ、30キロは『上級者部門?』『★5つ?』ということに気づき、何だか嫌な予感がしてきました。ただ、お金も払ってしまったし、頑張るしかないと気持ちを切り替え、青梅高水国際トレイルランの開催2週間前に急遽試走会に参加、トレイルランのイロハを教えていただき何とか試走を終え、翌日から約1週間太もも、腰を中心に筋肉痛を超えた痛みに襲われ「せめて15キロの中級者部門を申し込むべきだった(笑)」と思いつつも、これは二度とない(走りたくない)認知症徘徊演習だから、景色でも見ながら怪我なく楽しもうと、本番に望みました。

「当日、朝6:00出発、小雨、山道滑りそう、カッパとか着るの?何をしているんだ、自分」と色々思いつつも会場に到着すると大会名に「国際」と入っているだけあって、外国の方も多く、また合計2,000人の定員だけあって大勢の方が参加していまいた。青梅高水国際トレイルランの名物であるらしいエアロビクスでテンション高く運動している参加者も多い中、認知症徘徊GPSセンターの事務局員である私はエアロビクスには参加せず、徘徊演習に備えGPS端末の確認を入念に行いました。今回は山道だったので、自動計測時間を5分で設定してみました。いよいよ、青梅高水国際トレイルランスタートですが、この大会の30キロコースは、途中10キロ地点をスタートから100分で通過するという関門と、ゴールまで5時間という時間制限があり、関門でひっかかるとリタイヤバス等に乗ってゴール地点に届けてくれるのではなく、スタート地点まで自力で戻るという恐ろしい事態になります。何だかんだで準備して、10:00にスタートしました。

トレイルランと聞くと山を走り続けるのかなというイメージですが、今回参加した青梅高水国際トレイルランで言えば、木の根をむき出しにしたビルの5階だか10階くらいまでの高さがありそうな急斜面を歩いてよじ登ったり、日常生活で太ももをこんな上げる階段ないだろうという登山道らしい木の階段が50段なのか100段を登り、熊だって横歩きしないと通れないような細い道だったり、そこを登ったり、下ったり、気分は忍者でしたが、これは青梅高水国際トレイルランの30キロコースに便乗したからこそ味わえる徘徊演習だとも思いました。

さて、初めてのトレイルランに便乗した山の中での徘徊演習となりましたが、以下の通り無事スタート・ゴール地点である「永山公園」に徘徊経路を一周結ぶことができました。自動計測を5分間隔にしたことで、しっかりと登山道上に正確に表示することができました。GPS電波が届きにくい地下等の場所では正確に位置を測定できないケースもありますが、今回は山で木々はあったものの、正確に測定ができていました。
■徘徊経路
東京都青梅市の永山公園総合グランドから高水山常福院(最寄りのJR軍畑駅より徒歩100分)、永山公園総合グランドに戻る30キロコース
■青梅高水国際トレイルラン難易度(30キロコース)
エントリー:1065人(当日実際に走った人901人、内164人はエントリーしたけど当日は参加しなかった[雨の影響かな])
走った人:901人(時間内ゴール714人、制限時間5時間を超えたけどゴール150人、途中棄権37人)
認知症徘徊GPSセンターの事務局員は、遭難したくない一心で集団から離れず、無事ゴールできました。
◎まとめ
山道でも測位精度は高く正確に測定でき、地図にも正確に表示された。

この徘徊演習は、色々な気づきや学び、改善点が見つかりますが、今回は若干無茶をした徘徊演習でしたが、同じコースに900人も走っているはずなのに、30キロの山道では、1人になってしまうこともあり、山の静けさと道がわからないこともあり不安になったので、集団から離れないように頑張りました。あと山道は、登山をされている方と何度もすれ違いましたが、中には高齢者で、近所の方なのか手ぶらで軽装備の方もいました。すれ違いざまに挨拶をかわしますが、実際に認知症の影響で徘徊して道に迷っている方であっても、その方を第三者が「認知症による徘徊と」察知して保護するというのは、靴を履いていない、上半身が裸であるなど外観的に異常がないと、現実的にはかなり難しいだろうなと感じました。あと、やっぱり、登山経験もない事務局員が初めてトレイルランに参加して素直に思ったことは、山は道がわかりにくい、ましてや認知症の方で間違って山に入ってしまったら、自力で戻るのは厳しいと思いました。それと、細い道も多く、滑落の危険性があり日陰が多い山道であっても想像以上に体力を使って喉が渇きました。だから、やっぱり家族が早く山に入ったことを察知して、早く捜索を開始すること、前述の「参考事例(警察との連携によるGPS探索)」にもありますが、家族が山に駆け付けたものの、家族だけでの捜索は難しいと早く判断して、警察や消防等に連絡したという家族の機転も大切なのではないかと思います。

さて、今回の徘徊演習は長くなりましたが、山は30キロも走るものではありません(笑)、もし次に山で徘徊演習をするときは、歩いて演習したいと思います。

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