認知症徘徊コラム

認知症患者との接し方と家族の心得とは?

 認知症の患者を持つご家族は、私たち介護士が思う以上に接し方などの大変さを感じているのではないかと思います。
● 認知症本人から暴言や暴力を受けている
● 介護拒否がある
● 徘徊が頻繁
などがあると、身体的・精神的なストレスは計り知れません。

 介護士として約10年働いてきた中で認知症患者に対し共通して思うことの一つは、家と施設(通所)でその人は別人であるということです。
介護士として働き始めた時、施設ではとても穏やかに過ごしていた認知症患者の方がいました。その方は家にいるときは妻に対して、暴力をふるったり暴言を吐いたりしているそうで、家族からお話を聞いた時に「こんなに穏やかな方が?」と驚いた経験が何度もありました。
そして介護をする家族は、どうしようもできない現状にとても疲れており、非常にいたたまれない気持ちになりました。

 施設で他利用者と大きなトラブルもなく穏やかに過ごしている認知症の方は、私たち介護士にとっては介護度を低く見てしまいがちですが、ご家族にとっては「手に負えない家族」や「どうすることもできない人」といった存在になってしまい、在宅介護で相当なストレスを感じているものです。

 今回は、私自身の経験をもとに「認知症の家族との接し方や家族の心得」を簡単に紹介したいと思います。
認知症の家族との接し方について悩んでいる方はぜひ最後までご覧ください。

1.認知症の家族への接し方のポイント

  認知症になってしまった家族の接し方の基本として、以下に挙げたものがあります。
いつもそのように接しないといけないわけではありませんので、できるものから一つずつやってみても良いでしょう。

● 「認知症」への理解
 はじめに、認知症は脳の様々な病気と捉えられており「記憶力」や「判断力」などに障害が起きている状態であるということを理解しておく必要があります。
 認知症とは何か、どんな症状があるのか、認知症になってしまった本人の辛さなどの理解を深めていけば、認知症本人と家族との間で円滑なコミュニケーションが取れるようになるのではないかと思います。
認知症について理解をするのにおすすめする本は「認知症世界の歩き方」という本です。
※注1 文章と絵で認知症の世界が描かれているため、介護士の私でも非常に理解しやすいと感じた本です。

● 共感する
 認知症の方の感情や気持ちを理解し、共感することが大切です。認知症のご本人の感情を受け止め尊重することで、信頼関係を築くことができます。
また、恐怖や不安、悲しいこと、嬉しいことなどを共感してくれる人が近くにいると安心するものです。否定的な言葉をできるだけ避けて共感することが、接し方としては良いでしょう。

 私が認知症患者に対応するときは、共感することを一番に気をつけています。
例えば、
「早く家に帰りたい」と言っていた方には「そうですよね。お家の方が安心しますよね。」
「車の準備をしますので、少しお茶を飲んでいきましょうか」などと、受容の姿勢で話を聞きます。
ダメ、できませんなどと否定されたり叱られたりするのは、良い気分にはなりませんよね。
認知症の症状があっても一人の人間であり、ご本人の人権、尊厳への配慮が必要です。信頼関係を崩さないためにも大きな気持ちで接することがポイントです。

● 穏やか・優しい態度
 認知症の方に対しては、基本的には穏やかで優しい態度を保つことが大切です。
認知症のご本人に怒ったりイライラしたりすることは、混乱や不安をさらに増大させてしまう場合もあります。
 しかし、毎日続く介護にストレスが溜まってしまうのも理解ができます。なるべくストレスは認知症のご本人にぶつけるのではなく、周囲の人に話を聞いてもらったり、好きなことや趣味で上手に発散できると良いですね。

● 簡潔で明確に分かりやすく
 認知症の方はなにかしらのタスクをこなす際、複雑で分かりにくい指示に対応するのが困難な場合もあります。
例えば質問に答えて欲しいとき、レクリエーションで動いて欲しいときなどでコミュニケーションを取る際は、簡潔かつ明確にすることが大切です。分かりやすく簡単に伝えることで、認知症のご本人も理解することができ円滑化が図れます。
そして実際に話すときは耳元でゆっくり話してあげるといいでしょう。

● 専門的な支援・相談をする
 認知症患者との接し方に関するアドバイスや相談・サポートは、専門家から受けることもできます。
地域の支援団体や医療機関から情報や支援を受け、家族全体がより良いケアを提供できる環境が作れると良いでしょう。
また、認知症の家族を持つ方々が集って交流する「認知症カフェ」という場もあります。
自治体によって名前が違うので、お住まいの地域で調べてぜひ活用してみてくださいね。
「初めてでも安心!「認知症カフェ」とは?横浜市の取り組みとGPS実演紹介」でも「認知症カフェ」の取り組みについてご紹介しておりますので、よろしければご参考ください。

 以上で紹介したポイントは、認知症の家族との関係をより良くさせ、認知症患者の生活の質を向上させることにつながっていきます。
上記以外にもコツはありますが、誰にでもできる基本的な接し方となっているので覚えておくと良いかと思います。

2.認知症患者がいる家族の心得とは?

 家族が認知症と診断されて、初めは戸惑うかと思います。どう接したら良いのかよく分からないと感じる方もいるようです。
認知症患者がいる家族の心得を簡単に説明していきます。

● できることに目を向ける
 認知症の症状が出ると、今までできていたことが次第にできなくなってきます。
失敗ばかりでそちらに目が向いてしまいがちですが、できることをもっと見てあげても良いかなと思います。
 認知症の方は失敗ばかり責められると「自分はダメな人間だ」「家族に迷惑ばっかりかけている」などと、自尊心を下げてしまうこともあります。
また、失敗して本人に注意をした際、なぜ失敗したのか忘れてしまい、なぜ怒られているのか納得できない、悔しい・悲しいなど負の感情だけが残ってしまうこともあり得ます。
失敗はなるべく責めず、本人のできることになるべく目を向けていきたいものですね

● いつも通りの生活環境
 認知症になってしまったからといって、大きく生活環境を変える必要はありません。
徘徊がひどくなった・徘徊が心配で良く眠れないなどといった場合、GPS機器などを本人に持たせておくといった対策を講じても良いかもしれません。

しかし、今までやっていた家事や日課にしていることを、認知症だから危険といった理由でやらせなかったり取り上げてしまうと、生きがいがなくなり逆効果になってしまうこともあります。
普段通りの生活が送れるよう、できるだけ家族や支援サービスを使ってサポートしていけるといいでしょう。

● 福祉サービスに頼る
 介護のみならず福祉のサービスは多岐にわたり、ご家庭の状況や本人を取り巻く環境によってさまざまな福祉サービスがあります。
施設系の介護サービスや通所系、訪問系のほか、日中の様子を見守るカメラの販売や、認知症の徘徊対策に特化したGPS機器のレンタルサービスなどがあります。
認知症徘徊GPSセンターは、認知症高齢者による徘徊を専門としたGPS位置検索サービスを提供しています。お急ぎであれば決済完了後最短1〜3営業日で発送が可能なので、すぐにでもレンタルしたいという方は検討してみるといいでしょう。

 福祉サービスに頼るということは、甘えているなどと思われがちですが、介護者の心身の健康を維持するためにも必要不可欠なものです。
ぜひ、積極的にサービスを利用していただきたいです。

3.まとめ

 家族が認知症と診断されたら、認知機能の変化や接し方に戸惑うことが多くあると思います。
ポイントは
● 認知症について理解する
● 共感し大きな心で接する
● できることに目を向ける
● 専門家に相談や支援を受ける
です。
 できるだけ認知症患者本人のペースに合わせていって欲しいと思いますが、何よりも介護者の心身の健康も大切にして欲しいと願います。
認知症患者の介護に限界を感じてきたら、同じ悩みを持っている方や「認知症カフェ」、専門家に相談してみるのも良いでしょう。
この機会にぜひ、様々な福祉サービスをチェックしてみてくださいね。少しでも力になれれば幸いです。

参考記事・文献
筧裕介「認知症世界の歩き方」、ライツ社、2021年9月 ※注1 
認知症介護と接し方の心得 – ご家族の心得 さいたま市
認知症の人との上手な接し方 北谷町
(北谷町 認知症あんしんガイドから抜粋)
認知症Q&A 家族の接し方 全日本民主医療機関連合会
認知症とどう付き合うか~認知症の理解と予防~ 岩手県立大学

https://www.ninchisho-haikai-gps.com/gps_rn/wp-content/themes/cure_tcd082/img/common/no_avatar.png

執筆:腰塚 侑香里(介護福祉士)
介護福祉士としてデイケアで働きながら、介護職の楽しさを発信するためWEBライターとしても活動中。読みやすく分かりやすい文章を目指して頑張っています!

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