今回の記事は、新オレンジプランにおける認知症サポーターや認知症カフェについてです。
認知症本人や家族の身近な存在として、認知症サポーターやカフェがどのような役割があるのか、取り組みや活動内容などを解説していきます。
そして、令和元年6月18日に取りまとめられた「認知症施策推進大綱」の目指すべき社会の在り方「共生」と「予防」を基盤とした施策内容についても、詳しく紹介していくのでぜひ最後までご覧ください。
少子高齢化が加速していく現代において、認知症の課題は避けられないものです。
お互いが理解し合って誰もが住みやすい社会にしていきたいですね。
1.新オレンジプランの「認知症サポーター」の役割
認知症の理解を深めるために認知症サポーターは必要不可欠な存在です。
認知症サポーターは養成講座を受講すれば誰でもなれ、いわば認知症本人や家族の「応援者」です。日本全国に1,268万人(2020年6月末現在)の認知症サポーターが誕生しており、認知症を正しく理解し見守り、困っていたら知識を活かし支援の手をさし伸べます。
厚生労働省が提言している認知症サポーターの役割は5つあります。
1. 認知症に対して正しく理解し、偏見をもたない。
2. 認知症の人や家族に対して温かい目で見守る。
3. 近隣の認知症の人や家族に対して、自分なりにできる簡単なことから実践する。
4. 地域でできることを探し、相互扶助・協力・連携、ネットワークをつくる。
5. まちづくりを担う地域のリーダーとして活躍する。
学校教育でも認知症高齢者に関する知識や理解を広げる施策があります。
今後、小中学校で認知症サポーター養成講座を普及させる取り組みもあり、さらにサポーター人数が増えていくでしょう。
2.認知症カフェは心のよりどころ
認知症カフェもまた、新オレンジプランのもと認知症の人の介護者支援を目的に始まりました。
認知症の人やその家族、地域住民、介護や福祉の専門家など、子どもから大人まで誰でも集える場所です。
平成30年度の実施調査によると、47都道府県1,412市町村にて7,023のカフェが運営され、全国的に広がりつつあります。
認知症カフェの活動内容は、特別なプログラムを必要とせず、本人が主体となって活動します。
本人にとっては楽しめる場所、家族にとっては同じ悩みを持った人と交流できる場所であり、大きな役割を担っています。
また、地域住民にとっては、交流の場となる他、認知症についての理解を深められる場所になります。
しかし認知症カフェの存在を知らないという方もまだ多く、認知症カフェという名称も偏見を持たれるといった課題も残ります。
地域住民への理解と認知症カフェへの参加を促していくことが今後重要になっていくでしょう。
3.認知症施策推進大綱とは
令和元年6月に制定された「認知症施策推進大綱」は、新オレンジプランをさらに発展させたものです。
基本的な考え方は「認知症の発症を遅らせ、認知症になっても希望を持って日常生活を過ごせる社会を目指し、認知症の人や家族の視点を重視しながら 「共生」と「予防」を車の両輪として施策を推進」としています。
認知症という症状の「予防」と「共生」に向けて、国を中心に社会全体で変化しており、認知症にならないことを目指すのではなく
● 予防活動の推進
● 症状を緩やかにする
● 認知症でも変わりなく暮らせる社会
を2025年までの期間で目指すべき社会として制定されました。
また、近年では認知症の予防活動によって有病率が減少したとの報告も相次いでいます。
特に運動不足の改善や社会参加は、誰もが手軽にできる活動の一つです。
しかし、今回の認知症施策推進大綱においては、国が予防を重視することで新たな偏見が生まれる懸念も出てきます。
国が「予防」を積極的に推奨すれば、認知症になってしまった場合に「予防の努力ができなかった」と偏見が生じる可能性も高まります。
予防と共生に力を入れるだけでなく、認知症に対する知識を発信、そして身近なものにし、認知症を患う本人や家族のフォローもしっかりと取り組んでもらいたいものです。
次に、認知症施策推進大綱の中心となる5つの柱について説明します。
4.認知症施策推進大綱の5つの柱
①普及啓発・本人発信支援
認知症に関する周囲の正しい理解は必要不可欠であり、中でも地域や職域で認知症の人や家族を手助けする認知症サポーター養成の推進は重要な役割を持っています。
認知症の人が生き生きと活動している姿は、認知症に関する社会の見方を変えるきっかけともなり、また、多くの認知症の人に希望を与えるものでもあると考えられます。
認知症の人が、できないことを様々な工夫で補いつつ、できることを活かして希望や生きがいを持って暮らしている姿は、認知症の診断を受けた後の生活への安心感を与え、早期に診断を受けることを促す効果もあると考えられます。
また、「認知症とともに生きる希望宣言」(※)の展開なども本人等による普及活動を支援しています。当事者の声を知ることにより、認知症に対してより深く理解できるでしょう。
※認知症とともに暮らす本人一人ひとりが自らの体験と思いを言葉にしたもの。希望を持って前を向き自分らしく暮らし続けることを目指し2018年11月、日本認知症本人ワーキンググループ(JDWG)が表明。
②予防
2つめの柱の「予防」は世界中で注目されており、2019年5月にWHO(世界保健機関)からも認知症予防ガイドラインが出ています。
それによると、認知症発症予防には運動・禁煙・高血圧・糖尿病の管理が強く推奨されています。
他にも認知トレーニングや体重管理、社会参加、脂質異常症、うつの治療、難聴のスクリーニングや介入の必要性を示しています。
③医療・ケア・介護サービス・介護者への支援
「医療・ケア・介護サービス・介護者への支援」は、
● 早期発見・早期対応の体制整備の推進による連携強化
● 医療、介護従事者の認知症対応力の向上
● 介護サービス基盤の整備、人材確保
● 介護者の負担軽減の推進
が施策内容です。
介護者の負担軽減には、認知症カフェや家族教室、認知症患者を抱える家族の集いなどがあります。
④認知症バリアフリーの推進・若年性認知症の人への支援・社会参加支援
認知症施策推進大綱5つの柱の④では、以下の内容を追加・拡充しています。
● バリアフリーのまちづくりの推進
● 移動手段の確保の推進
● 地域支援体制の強化(チームオレンジの構築)
● 認知症に関する取組を実施している企業等の認証制度や表彰
● 商品・サービス開発の推進
● 成年後見制度の利用促進
● 認知症に関する様々な民間保険の推進
若年性認知症に対する施策は不十分であり、今までと変わらない生活を送っていくのは困難です。
若年性認知症の本人や家族は相談先も分からず、生活や社会に対する将来的な不安やストレスを大きく抱えることになります。
⑤研究開発・産業促進・国際展開
⑤では「認知症の予防法やケアに関する技術・サービス・機器等の検証、評価指標の確立」と、「既存のコホートの役割を明確にしたうえで、認知症発症前の人や認知症の人等が研究や治験に容易に参加できる仕組みを構築」を拡充、追加しています。
現状、アルツハイマー型認知症の治験薬に対する臨床研究や治験はうまくいっていません。
しかし中国では、腸内細菌を調整する認知症新薬が発売されるなど、海外では少しずつ進歩しています。
我が国でも日本発の認知症疾患修飾薬候補の治験に向けて、日々研究に取り組んでいるようです。
このように、認知症に対する支援策は着実に増加してきています。
認知症本人やその家族が、安心して暮らせる街になることを願いながら、私たちもできることを一つずつ行っていきたいものです。
・認知症施策推進大綱(令和元年6月18日認知症施策推進関係閣僚会議決定)概要
・地域包括ケアシステムと認知症施策(厚生労働省)
・「認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)」から 共生と予防を中心とした「認知症施策推進大綱」へ
・認知症の予防・発症遅延 島田 裕之
・認知症サポーターに期待されること(厚生労働省)
執筆:腰塚 侑香里(介護福祉士)
介護福祉士7年目の30代3児の母。介護職の楽しさを発信するためwebライターとしても活動中。大学卒業後、金融機関に就職するもやりがいを感じられず介護職に転職。デイサービス→結婚を機にリハビリ施設へ。介護士として毎日楽しく高齢者に寄り添いながら働いています。