認知症徘徊コラム

認知症の徘徊における事故事例とリスク|防ぐための見守り策とは?

 まだ筆者が介護福祉士の資格を取ったばかりの頃、とても考えさせられる認知症患者の徘徊事故がありました。
2007年に起こった、認知症高齢者の徘徊によって列車に轢かれた死亡事故で、鉄道会社が家族に対し損害賠償を請求したものです。
 当時ご家族は出入り口にセンサーをつけるなど、徘徊対策を十分にしていました。
しかし、ほんの数分介護者がうたた寝をしてしまったことから、事故につながり多額の損害賠償を請求されてしまったのです。
 愛知県で起こった認知症者による鉄道事故は、当時世間でとても話題となり記憶に残っています。

 ある新聞社によれば2005年〜2012年度の間に、鉄道事故が少なくとも149件、そのうち115人が死亡していたとの調査報告があります。
超高齢社会が進む現代、認知症高齢者の徘徊による事故が年々増加しています。
このような問題は、家族の見守り・介護だけでは対応しきれません。
地域事業や住民など、社会全体で見守りをしていくことが重要だと思います。
 
 今回の記事では認知症患者における事故事例と、事例をもとに事故を防ぐための対策やリスクについて解説しています。
痛ましい事故を一件でも多く防ぐためにも、よかったら最後までご覧ください。

 

1.事故事例①|鉄道事故

 2007年12月重度認知症高齢者が、家族が目を離した隙に外出したのち、線路内に立ち入り列車にはねられるという鉄道事故がありました。
 原因は、介護者である妻がうたた寝をしていたほんの数分のうちに外出、トイレを探しているうちに線路内に迷い込み事故につながったとのことです。

 列車遅延などの損害をこうむった鉄道会社は、介護者である妻と別居する子に対し、損害賠償を請求。
一審、二審では賠償金の支払い命令が出たものの、最高裁判所では鉄道会社からの請求を全て退けた判決となりました。

逆転判決の理由は
1. 妻が85歳で要介護1認定を受けていた
2. 長男は同居しておらず接触も少ない
といったことから、法定における監督義務者とみなされないと判断したためです。

2.事故事例②|公園で死亡事故

 2014年8月、横浜市鶴見区の介護施設から行方が分からなくなった認知症高齢者の男性が、東京都中野区の公園で死亡していたという事故がありました。
行方不明になってから、2回ほど通報され警察や消防が対応しましたが、男性がしっかりと受け答えをしたことから、認知症と気づかずに保護・救急搬送をしなかったということでした。
通行人から二度通報されたものの、痛ましい事故につながってしまったのです。
しかし「この方は認知症だ」と気づくのは非常に困難です。

3.徘徊事故を防ぐ対策は?

 認知症者による徘徊事故を未然に防ぐには様々な対策があります。

例えば
1. 玄関に開閉センサーを取り付ける
2. GPS機器を杖や靴などにつけておく
3. 地域のSOSネットワークに登録する
4. 身元がわかるものを身につけておく
などになります。

 しかし、物的な対策では限界があります。
事故事例①の鉄道事故においては、家族はできる限りの徘徊対策を取っていました。
遠方に住む長男が毎週末実家に戻り、本人が満足のいくまで散歩に付き合ったり、
玄関の出入りがあった際に鳴るチャイムを枕元に置いて、昼夜問わず注意を払っていたそうです。それでもちょっとした隙に事故が起きてしまいました。
事故事例①②の後、認知症の人による事故に対応する保険商品が広がり、公費で保険料負担する自治体が増えました。また介護施設側の徘徊対策や警察・消防の「認知症」に対する知識などに改善点が見られます。

 しかしいずれも事後対策でしかありません。
 どうすれば悲惨な事故を防げたのか。

 それはやはり「周囲の目」つまり関心を持つことが重要になると筆者は考えます。

例えば事故事例①の場合
● 無銭で改札が通れた
● 施錠されていない扉から線路に降りた
● 駅のプラットホーム端にある階段へ向かっていた

どこかで誰かが気づいていれば防げる場面はあったと考えられます。
こういった周囲にいた人が少しでも関心を持っていれば防げたのかもしれないと感じます。

4.認知症者の徘徊事故リスク

 認知症になると、次第に認知機能が低下し正常な判断ができなくなってしまいます。

「ここから先は入ったら危険」
「道路の真ん中を歩いたら危険」

私たちが当たり前に判断できることが、認知症患者は困難になります。
そのため一人で徘徊してしまった場合は、事故のリスクが非常に高いと言えます。

 ある調査で、認知症の方が徘徊で行方不明になってしまった際の生存率は
● 当日中の発見…82.5%
● 翌日…63.8%
● 3~4日目…21.4%
● 5日目以降…0%
という結果が出ています。
日を追うごとに行動範囲も広がってしまうため、行方不明になってしまった場合、早急な対応が重要になってくるのです。

5.認知症に対する関心と社会の取り組み

 愛知県立看護大学の研究によると、19歳以下の「認知症」に対する関心が3.8%と最も低いという結果が出ています。
「関わりたくない」「怖い」「不幸だと思う」といったネガティブな意見の他、
「なんとも思わない」「かわいそう」などの意見もありました。
高齢社会で認知症患者が増加してるにも関わらず、10代〜30代では「認知症」に対して無関心という傾向になっています。
核家族化が進み、高齢者と接する機会が減っていることも要因の一つに挙げられます。

 近年では、認知症サポーターや地域見守り隊、認知症啓発プロジェクトなど認知症に関するさまざまな施策も取り入れられています。
地域ぐるみで、認知症の高齢者が住みやすい街にしていくことが重要になるでしょう。

6.まとめ|認知症者の徘徊による事故を防ぐには

 認知症の徘徊と見分けることは難しいかもしれませんが、気にかけることにより助かる命があります。
認知症の徘徊かどうか悩んだ時の対応などについては、別記事でも紹介しています。

 今回ご紹介した2つの事例の他に、数日間発見されずに熱中症や凍死で亡くなってしまった事例もたくさんあります。
 65歳以上の高齢者の単独世帯や夫婦のみの世帯が増えてきている今、認知症を「他人事」と思わずに、そっと寄り添える社会にしていきたいものです。
また、ご家族が周囲に助けを求めやすい環境を作ることが、今後大切になってくると思います。

参考記事
・全日本民医連 長男が語る「認知症鉄道事故裁判」
・京都新聞 認知症の父が電車にはねられ死亡、高額賠償請求 遺族の苦闘、それを救った最高裁判決
・認知症の徘徊による行方不明死亡者の死亡パターンに関する研究
・認知症高齢者の徘徊を写真付きでつぶやくドアシステム
・厚生労働省 世帯数と世帯人員数の状況
・朝日新聞 どうすれば救えたか…認知症男性、保護されず公園で死亡

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執筆:腰塚 侑香里(介護福祉士)
介護福祉士7年目の30代3児の母。介護職の楽しさを発信するためwebライターとしても活動中。大学卒業後、金融機関に就職するもやりがいを感じられず介護職に転職。デイサービス→結婚を機にリハビリ施設へ。介護士として毎日楽しく高齢者に寄り添いながら働いています。

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