認知症の方が夕方近くなると突然「家に帰りたい」「自宅まで送っていただけますか」などと言ったり(帰宅願望)、声が荒くなったり、落ち着かなくなったりします。
この症状は、夕方によく見られることから「夕暮れ症候群」や「夕方症候群」とも言われています。
認知症の方が発症する夕暮れ症候群において、家に帰りたいという帰宅願望から徘徊につながるケースが多いです。
主な原因として、ストレスや不安・焦燥感、孤独感といった心理的要因をはじめ
運動不足、日照不足といった身体的や環境要因が大きく関わっています。
本記事では
● 認知症の徘徊と夕暮れ症候群の関係
● 夕暮れ症候群の症状や原因
● 発症した際の対応
など、筆者の経験も紹介しながら説明していきます。
よかったら最後までご覧ください。
1.認知症の人に現れる「夕暮れ症候群」の症状と原因
筆者が勤めていたデイサービスでは、認知症者の一人が夕方の帰宅時間になると
「私のかばんはあるかな?」
「私の家はあそこの〇〇です。帰らせてもらいます。」
と言いながら施設内を歩き回り、落ち着かなくなるといった行動が見られていました。
ここでは、夕暮れ症候群の代表的な症状と原因を解説します。
よくみられる症状
認知症患者において夕暮れ症候群の症状には
● 夕方になると声が荒くなる
● 急にソワソワしたり徘徊がみられる
● 「もう家に帰る」と外に出ようとする
などといった不穏行動がみられ、特に夕方にかけて顕著にあらわれます。
はっきりとした定義や診断基準がなく、せん妄の症状とも似ているため、介護する家族も夕暮れ症候群とは分からないこともあり混乱することがあります。
せん妄は急性発症で通常それほど長期間続かず、状態変化はみられますが夕暮れ症候群のように夕方から夜間に定期的に悪化するとは限りません。
また、せん妄は認知症患者に限らず、術後や持病の悪化の際にもあらわれることがあります。
しかし、夕暮れ症候群は基本的には認知症患者にみられます。
夕暮れ症候群の原因は?
認知症を患っている方にあらわれる夕暮れ症候群の原因として
● 心理的、身体的要因
● 環境要因
が挙げられます。
例えば、認知機能の低下によって家族のことを知らない人と認識してしまい、大きなストレスを感じて発症することもあります。
施設においては、介護スタッフがバタバタと忙しくしている様子が本人に伝わり、落ち着きがなくなったり
「夕飯を作らないと」という過去の習慣によるものであったり原因はさまざまです。
私たちが、夕方になると自律神経のバランスが崩れて不調になりやすいのと同じく、認知症の高齢者も不調に陥りやすくなるというわけです。
2.認知症の方の徘徊と夕暮れ症候群の関係性
夕暮れ症候群の一つに密接に関わっているのが、認知症の徘徊です。
不安や焦り、ストレスから帰宅願望が強くなり、落ち着かず歩き出す=徘徊につながるケースがよくあります。
また徘徊によって行方不明になった時間帯が、12時〜16時が最も多いというデータもあります。自律神経のバランスの崩れや、周囲の環境(日が沈んで暗くなる、スタッフの慌ただしさ)が本人へと伝わり不安感の増大、そして徘徊につながりやすくなるのではないかと考えます。
3.認知症患者の夕暮れ症候群による徘徊への対応は?
夕暮れ症候群の徘徊には、これといった治療法はありませんが、介護者や周りの人の対応で和らげたり防いだりすることができます。
ここでは夕暮れ症候群による認知症高齢者の徘徊につながりそうなときの対応のコツを説明します。
話を「傾聴」し落ち着かせる
認知症患者の徘徊にはさまざまな理由があります。
● 自宅に帰りたい
● 家族が待っている
本人にとっては、徘徊は問題行動ではなくきちんとした理由があります。
まずは、話を聞いて落ち着かせてあげると良いでしょう。
否定せず受け止める
認知症患者が「家に帰りたい」と言ったときに「違いますよ、あなたの家はここです」と否定をするのではなく
「帰りたくなる時間ですよね」
「そろそろ良い時間になってきましたね」
など、本人の気持ちを受け止めてあげましょう。
人は誰でも否定されると落ち込んだり、悲しくなったりして余計に反発したくなります。
相手の気持ちを一度受け止めて「そうですよね」と一言でもいいので声をかけてあげましょう。
興味を逸らしてみる
話を聞いて気持ちを受け止めてあげたら、興味をそらす話題をするのもおすすめの対応です。
例えば
「帰る前に花壇の花を見ていきませんか」
「こんな時間だし夕飯でも食べていきませんか」
と言った声かけもいいでしょう。
他にも
● 好きな作業(こと)をしてもらう
● 軽食やおやつを食べる
● 簡単な家事をする
● 他者との会話
などといった方法で帰りたいということから興味をそらす方法もあります。
一緒に歩いてみる
時間に余裕のある場合は、一緒に外を歩いてみても良いでしょう。
勤めていたデイサービスにおいて、帰りたいと言って外に出ようとする利用者に対し、一緒に外に出て施設の周りを歩いて対応することが多々ありました。
話しながら歩いていると、次第に落ち着き、その後も普段通りに過ごしていました。
夕暮れ症候群における「徘徊」は、抑えるのではなく本人の気持ちに寄り添い、感じている不安やストレスを軽減してあげることが大切になります。
4.夕暮れ症候群の緩和ケア
夕暮れ症候群に対する治療法はありませんが、緩和ケアとして効果があった研究結果を二例紹介します。
セルフスキンケア
聖隷クリストファー大学大学院須賀 京子氏の論文によると、施設入所者59名(女性高齢者)を対象に1ヵ月間、フェイスケアプログラムを実施しました。
その結果、夕暮れ症候群が全体的に緩和されたという報告があります。
(フェイスケアとは女性高齢者自身が化粧行動のうち洗顔または清拭と化粧水や乳液等を用いて、顔面・頸部のスキンケアを行うことをいい、メーキャップは含みません。)
特に
● 徘徊
● 帰宅願望
● 介護拒否
● 落ち着きがなく興奮する
が、減少したとのことです。
他者とのコミュニケーション交流、自立度の改善、意欲の向上など多方面でのメリットもみられました。
今回は女性のみの研究でしたが、女性に限らず男性にも効果は期待できると考えられます。
DVD鑑賞
大阪府 医療法人 聖志会 渡辺第二病院では、認知症を患っている4名の症例を通して、夕暮れ症候群には、DVD鑑賞が有効であると報告しています。
さらに、抗精神病薬の頓服頻度も減少したり、臥床傾向の方が起きて観ることが増えたり良い影響が出たとのことです。
DVDの内容は、昭和時代に観たと思われるテレビ番組(水戸黄門など)を選んだものとされており、私たちでも手軽に取り入れることができそうです。
5.認知症徘徊と夕暮れ症候群の関係と対応方法|まとめ
夕暮れ症候群は多くの介護者が悩まされることの一つであり、徘徊の対応による負担、ストレスも増加します。
根本的な治療法はなく、本人が一番つらい状況です。
できるだけ本人の気持ちに寄り添って、不安や孤独感などを軽減することに意識を向け介護ができると良いでしょう。
参考記事
・認知神経科学の夜:認知症患者にの夜間にみられる精神症状および行動症状
・認知症高齢者の 徘徊の実態
・聖隷クリストファー大学大学院 須賀 京子高齢者施設に入所している認知症女性高齢者の夕暮れ症候群の緩和と生活機 能の改善を目指すフェイスケアプログラムの開発
・夕暮れ症候群に対する DVD 鑑賞の効果
・公益社団法人 認知症の人と家族の会:No.8-夕方になり、家に帰る!-受容することが大切
執筆:腰塚 侑香里(介護福祉士)
介護福祉士7年目の30代2児の母。介護職の楽しさを発信するためwebライターとしても活動中。大学卒業後、金融機関に就職するもやりがいを感じられず介護職に転職。デイサービス→結婚を機にリハビリ施設へ。介護士として毎日楽しく高齢者に寄り添いながら働いています。