「認知症」は65歳以上の高齢者で発症するイメージですが、30〜50代と若くして発症する「若年性認知症」というものもあります。
特に30〜50代の働き盛りで発症した場合、就業の継続のほか子どもの教育資金など経済的な不安や、介護をする家族への負担が生じます。
例えば徘徊の症状がみられる場合、GPSをつけるなどの対策をしていても、深夜早朝関係なく対応しなくてはいけません。
24時間見守るというのは現実的に困難であり、働きながら介護をすることは、精神的にも体力的にも負担がかかってしまいます。
その結果、休職や退職という選択を余儀なくされ、経済的に困窮してしまうこともあります。
今回の記事では、身近な家族が「若年性認知症」となったときの経済的な支援サービスや、福祉制度について紹介しています。
1.若年性認知症を発症したときの大きな課題と不安
若年性認知症と診断された方の声には
・ 今の仕事を続けられるのか不安
・ 働くことで社会の役に立ちたい
・ 収入を得ることで安心感を得たい
・少しでも進行を抑えて仕事を続けたい
といった声があります。
生きがいがなくなること、社会から切り離されるなどといった不安、
また「会社や職場の理解が得られるかどうか」も不安要因としてあげられます。
誰もが働きやすい社会になるには、会社や職場の人の「若年性認知症」に対する理解や配慮が必要であり、それにより本人も大きな不安を持つことなく働き続けることが可能になります。
この章では、若年性認知症を発症したときに感じる不安と課題についてまとめています。
経済的な問題
若年性認知症と診断された方の多くは、正規雇用が困難になり休職や退職という選択を余儀なくされます。
理解のある会社においては、配置転換したり障害者雇用枠に入れてもらったりして働き続けられるよう環境を整備します。
しかし実際には、6割を超える方が退職しているというアンケート結果があり、重大な課題ともいえます。
子どもが学校に通っている場合は学費、ローンの支払い、さまざまな生活費など経済的な問題に直面します。
支援制度や福祉サービス、地域のネットワークをうまく活用できると良いでしょう。
本人の生きがいや居場所
生きがいや自分の居場所というものは、退職後に生きる活力になり大切になってきます。
例えば、家族の会やデイサービスなどでは、同じような境遇の人と話しができる機会があり安心感や孤独感の軽減につながるでしょう。
なにか一つ趣味があれば生活にメリハリが生まれ、ストレスの解消になりより活発的にもなります。
ボランティアをする、子どもたちに絵本の読み聞かせをする、絵を描くなどの趣味を見つけられると良いでしょう。
退職後の生活の不安
退職後、どう生活していけばいいのかと生活に関しての不安もあります。
経済的な面での支援には
・ 障害年金の受給
・ 住宅ローンの免除(保険内容により異なる)
・ 精神障害者保健福祉手帳の活用で税金の免除減免
などがあります。
厚生労働省が関係府省庁と策定した「新オレンジプラン」の一つに、若年性認知症への施策強化も取り入れられているため、今後さらに若年性認知症に向けた支援に力が入ることが予想されます。
2.経済的支援やサービスについて
退職・休職による収入の減少で、約4割の家庭で家計が苦しいというアンケート結果が出ています。
就労が困難な方に向けた経済的な支援策や利用できる福祉サービスを紹介します。
企業の障害者雇用
厚生労働省では、障害の有無に関係なく誰もが就労でき自立した生活が送れるよう「障害者雇用対策」を推進しています。
企業の雇用障害者数と実雇用率は、平成16年から令和2年にかけて右肩上がりに推移しており、精神・知的・身体障害いずれも向上しています。
若年性認知症と診断されても、配置転換で就労を継続している人や転職をして働き続けている人も数多くいます。
相談せずに退職・休職するよりも、一度会社に相談してみてはいかがでしょうか。
障害者手帳
障害者手帳には3つの種類の手帳があります。
1. 療育手帳
2. 身体障害者手帳
3. 精神障害者保健福祉手帳
認知症の精神疾患により日常に支障がきたせば「精神障害者保健福祉手帳」
レビー小体型認知症など身体に症状が出る場合は「身体障害者手帳」
を持つことができます。
障害者手帳を申請所持することで
・ 住民税や自動車税など各税金の減免
・ 公共料金の減免
・ 障害者控除
などさまざまな制度やサービスを受けられます。
各市町村の担当窓口(障害福祉課など)で相談・申請が可能なので、一度相談してみてください。
障害年金
「障害年金は、病気やけがによって生活や仕事などが制限されるようになった場合に、現役世代の方も含めて受け取ることができる年金」です。(日本年金機構)
・ 障害基礎年金
・ 障害厚生年金
の2種類があり、国民年金に加入の場合は「障害基礎年金」、厚生年金加入の場合は「障害基礎年金」に上乗せして「障害厚生年金」が支給されます。
また「障害手当金(一時金)」を受け取れる制度もあります。(保険料納付要件など条件あり)
傷病手当金
全国健康保健協会によると、傷病手当金とは「病気やけがのために会社を休み、事業主から十分な報酬が受けられない場合に支給」される制度です。
連続する3日間を含み、4日以上就業できない場合に支給されます。
一定の条件を満たしていれば退職後でも受け取れるため、会社に相談しましょう。
雇用保険(失業手当)
退職して失業給付を受けたい場合、まずは近くのハローワークに求職の申し込みをし求職活動したのちに失業認定を受けなければいけません。
すぐに求職活動ができないときは、ハローワークに届け出れば失業給付期間を最大4年間延長できます。
その他受けられるサービス
そのほかにも自治体や企業で割引のサービスが受けられます。
例えば
・ 子どもの教育資金制度
・ 電車などの交通機関
・ 携帯電話の利用料
・ レジャー施設割引
などさまざまです。
3.40歳以上なら介護保険の利用もできる
介護保険サービスは65歳以上を対象としたサービスですが、若年性認知症は特定疾病になるため条件を満たせば介護保険の利用ができます。
40歳〜64歳で、以下の条件を満たしている必要があります。
1. 認知症と診断されている
2. 認知症の原因が事故やケガなどの悪化によるものではない
介護保険の利用には、要介護認定を受けないといけないため市町村に問い合わせをしましょう。
4.私たちの周りには様々な福祉サービスがある
働き盛りで認知症となってしまった場合、本人や家族は「どうしたらいいのか」と漠然とした不安が生じます。
そんな時は若年性認知症コーディネーターや市町村窓口など、周囲に頼って相談して欲しいと思います。
支援制度やサービスをぜひ活用して、少しでも精神的、経済的な不安や負担がなくなれば幸いです。
参考記事
・若年性認知症支援コーディネートのためのサポートブック(平成28年度厚生労働省老人保健健康増進等事業)
・若年性認知症支援コーディネーター配置のための手引書(平成27年度厚生労働省老人保健健康増進等事業)
・障害者雇用対策(厚生労働省)
・障害者手帳について(厚生労働省)
・障害年金(日本年金機構)
・傷病手当金(全国健康保険協会)
・若年性認知症ハンドブック(東京都福祉保健局)
執筆:腰塚 侑香里(介護福祉士)
介護福祉士7年目の30代2児の母。介護職の楽しさを発信するためwebライターとしても活動中。大学卒業後、金融機関に就職するもやりがいを感じられず介護職に転職。デイサービス→結婚を機にリハビリ施設へ。介護士として毎日楽しく高齢者に寄り添いながら働いています。