認知症になると思わぬトラブルにあってしまうことがあります。
時間や場所、この人がだれなのかといった記憶があいまいになってしまうためです。
記憶と現実がつながらなくなると本人も不安になってしまいます。
現実をきちんと把握しようとあちこち歩いて徘徊してしまったり、慌ててしまって事故にあったり、物を破損させてしまったりと思いもよらないトラブルを起こしてしまうこともあるでしょう。
今回の記事では認知症が原因で起こった事例や認知症に対応している保険などを紹介します。
ぜひ最後までご覧ください。
1.認知症で大変なのは本人だけじゃない
認知症になると何かと大変というのは周知の事実ですが、本人には大変なこと、家族に負担がかかっているという自覚はほとんどありません。
認知症になると認知力の低下が起こり行動・心理症状(BPSD)と言われる様々な症状がでてきます。
BPSDでは徘徊、幻覚・幻聴、収集、といった困った現象だけでなく、それによって本人も混乱し性格も落ち込みやすくなったり、怒りやすくなったりといった変化が起こりやすくなるのです。
それだけでなく、物事の良し悪しの判断をする能力も低下するので本人も意図せず大きなトラブルを引き起こしてしまうことがあります。
たとえば筆者の経験では「これから出掛けるから」と食器や冷蔵庫の生ものをカバンに詰め込まれてしまったり、ゴミを捨てようとすると泥棒だと思われて警察へ連絡されそうになったこともありました。
認知症状にはムラがあることが多いため、落ち着くまでは今日OKだった対応が明日になったらNGということもよくあるのです。
このように認知症の症状が落ち着かない間は介護士でも対応に苦慮することがあるほどなので、周りにいる身内や家族の方も対応に苦労されているのではないでしょうか。
しかし、大変だとしてもBPSDの症状を家庭内で対応できるときは家族や身内だけでトラブルに対処できます。
大変なのはBPSDの症状が外出先でも起こるようになってしまった場合です。
認知症による混乱が外出先でも起こるようになってしまうと発生するトラブルも大きくなってしまいます。
2.認知症トラブルで裁判になったケース
認知症の方の徘徊が原因となったトラブルで、認知症鉄道事故裁判があります。
2007年12月、認知症をもつ夫が、妻が少し目を離したすきに外へ出て、結果として鉄道に侵入、電車にはねられ死亡する事故が起きました。
この事件でJRは家族が監督不行き届きだったことが原因で事件が起こったとして妻と長男に720万円の賠償請求をしました。
結論として2016年3月、最高裁はJRの損害賠償を否定する逆転判決を下しています。
しかし、この判決は認知症をもつ人の側に立つと朗報ではあるものの、被害者側に立つと認知症の方がトラブルを起こしても救済されないという判決とも取れるものでした。
この事件は世間に衝撃を与え認知症トラブルに対する保険への考えに一石を投じたのです。
3.自治体単位で認知症保険への取り組み
自治体で初めて認知症のトラブルに対する保険を導入したのは神奈川県の大和市です。
家族の不安を解消するのが狙いで、徘徊中に踏切事故に遭って高額の損害賠償を求められる事態などを想定し、市が保険契約者となり、最大3億円が補償されます。
その後も認知症保険に取り組む自治体は増加し、現在では60もの自治体で取り組みが行われています。
認知症保険導入のきっかけが鉄道事故という自治体も複数あるようです。
自治体の認知症保険に加入する条件は自治体によって様々、また費用負担がないもしくはあっても少額ということもあり認知症をもつ人に対して加入しやすく配慮されています。
しかし、自治体で扱う認知症保険はほとんどがトラブルによって発生した損害賠償がメインで徘徊で迷子になった場合への捜索費用や交通費については補償されていません。
自治体の認知症保険で徘徊の迷子対策として多いのは、認知症見守りネットワークなどに加入することを認知症保険加入の条件に設定しQRコードやステッカーを提供するといった対策です。
認知症保険に取り組んでいる自治体の中でも、特に伊賀市の認知症保険は個人賠償保険付きGPSを採用しているので、徘徊で迷子になっても対応ができるようになっています。
4.認知症保険が自治体にない場合便利な個人賠償責任保険
認知症保険が自治体にない場合は個人賠償責任保険に加入しておくと安心です。
個人賠償責任保険は同居の親族が物を壊してしまったり他人をケガさせてしまったときに弁護士費用や賠償金を補償してくれる保険です。
個人賠償責任保険は単品で扱っているところはほとんどありません。
すでに加入している保険に特約でつけるタイプの保険なので、もしあなたが保険に加入しているのであれば現在の保険につけることができるか確認することをおすすめします。
ただし、個人賠償責任保険も保険会社によってカバーする親族の範囲や補償の内容が違うので、自分の保険に特約としてついていた場合もそれだけで安心せず、内容を確認しておくといいでしょう。
5.民間の認知症保険はどんなもの
民間の認知症保険はそのほとんどが認知症の診断が下りたときに一時金が下りるという仕組みになっています。
発症後の徘徊やトラブルに保険で対応してくれるようなところは2022年10月現在ほとんどありません。
しかし、認知症前診断や年金、介護給付金の申請にサポートがあるなど認知症診断前後であれば便利なサービスが豊富です。
6.認知症の困った行動に保険とGPSで備える
認知症になると本人の意思に関わらずトラブルを引き起こしがちです。
認知症になっても、まだ私は大丈夫と思っている間はトラブルに対して危機感を持つことはないかもしれません。
しかし、徘徊などの大きなトラブルではなくても、お店の商品棚を倒してしまった、水を出しっぱなしにして階下の部屋を水浸しにしてしまった、など「うっかり」からのトラブルさえ起きてしまったら賠償金が発生することがあります。
認知症が進んで徘徊して外に出てしまえばさらにトラブルが大きくなりがちです。
もし徘徊で迷子になってしまえば、発見までの費用も大きな負担になってしまいます。
認知症かもしれないけど、まだ大丈夫と考えている段階で、自治体の保険や、個人賠償責任保険、民間の保険を検討し、お守り代わりにGPSを持ち歩いていれば万が一トラブルが起きたとしても余裕をもって対応できるでしょう。
参考記事
・はいかい高齢者個人賠償責任保険(神奈川県大和市)
執筆:岸田 梨江(介護福祉士、管理栄養士)
知的障がい児支援に10年携わり、現在高齢者介護施設勤務
豊富な経験を基に様々な視点から情報を提供いたします。