認知症徘徊コラム

認知症の徘徊は危険?トラブル防止対策は?

認知症になると、自分がどこにいるか分からなくなってしまい、不安に駆られて外を歩き回ることがあります。
一般的に、その状態のことを”徘徊”とよんでいます。
周囲の人にとって、その現象は”目的もなく歩き続けている”ように見えるでしょう。
しかし、認知症をもつ老人本人は、安心できる場所を、目的の場所を求めて捜し歩いているのです。

1.認知症を持つ老人の徘徊は社会問題にもなっています

”徘徊”と聞くと、”歩いてどこかに行ってしまう”というイメージがありますが、徘徊は徒歩とは限りません。
車を運転していて、帰り道が分からなくなるのも”徘徊”、電車で目的地に向かおうとして自分のいる場所が分からなくなり、あてどなく乗り換えを繰り返してしまうことも”徘徊”といいます。
特に分かりやすいのは、”高速道路における逆走”です。
高速道路における逆走の発生状況 | NEXCO東日本 (e-nexco.co.jp)
”逆走”は正しい車線を判断できず、間違った車線を”徘徊”してしまう状態を指します。
こちらの「逆走事案の発生状況」の「2018年の逆走した運転者の年齢統計」によれば、”逆走の認識なく運転していた”割合が65歳~75歳以上で7割、さらに「動機別の逆走事案発生状況」の統計によると、”認識なし”で逆走していた41件のうち、27件のケースで運転手は認知症であると診断されました。
それだけではなく近年、認知症をもつ老人の行方不明数は毎年増加傾向です。
この先は、今まで以上に、認知症を持つ老人の徘徊が社会的に問題になっていきます。
厚生労働省でも、認知症の人の意思を尊重し、できる限り住み慣れた環境で自分らしく暮らし続けることができる社会の実現を目指して、新たに「認知症施策推進総合戦略」(新オレンジプラン)を策定しました(平成27 年1 月27 日)。
これからの社会では、認知症を持つ老人が安心・安全に住み続けることが必要とされているのです。

2.実際に起きた徘徊によるトラブル

認知症を持つ老人の徘徊は、目的地を探して懸命になるあまり、また認知機能低下も重なって周囲の危険や、自身の疲れ具合を察知することができにくくなってしまっています。
少し前になりますが、認知症の男性が認知症であると気づかれず公園で死亡してしまう事件もありました。
キッカケはどうあれ、自宅がどこにあるか分からず、また目的地がどこにあるか分からず歩き続け、残念なことになってしまった事例です。
この事件では警察に行方不明届が出ていたにもかかわらず、それだけでは不十分でした。
では、どうしたらトラブルを防止できたでしょうか。

3.徘徊によるトラブルを防ぐために

厚生労働省も徘徊によるトラブルを未然に防ぐため率先して地域の取り組みを推進しています。以下は地域の取り組みについてまとめた資料です。
行方不明を防ぐ・見つける 市区町村・地域による取り組み事例 (厚生労働省)
これらの取り組みすべてに言えることは、家族や職員などの当事者、警察・消防の専門機関のみならず、小学生やボランティアなど”地域の人々”の力を借りて、認知症を持つ老人の徘徊トラブルを早期発見・防止に取り組んでいることです。
この中で特筆すべきは群馬県高崎市のGPSを利用した取り組みでしょう。
「システム利用者は行方不明時,全て無事に救出」
「約9割の事案が1時間以内に発見・保護」
というのは理想的ともいえる成果です。
その他の取り組みでも年々問い合わせや発見の増加、地域の人々の意識の向上につながっています。
これらの取り組みが全国的に広がっていけば徘徊によるトラブルを減少させることができるはずです。
さらに、愛知県では平成27年~29年に認知症を持つ老人の徘徊について調査が実施されました。
この”認知症を持つ老人の徘徊の実態に関する調査”によると、行方不明後24時間以上経過すると生存・発見される確率はかなり少なくなります。
逆に、無事に見つかる確率が高いのは行方不明から6時間以内です。
そのため、あらかじめシステムを整備し、認知症を持つ老人が行方不明になったときには、迅速に捜索できる体制を整えておくことが、トラブルを未然に防ぐ上で重要なポイントであるといえます。

4.まとめ

これからの社会において、認知症は決して他人ごとではありません。
厚生労働省の推計によると2025年には65歳以上の5人に一人は認知症を持つだろうといわれています。
しかし認知症は、ぱっと見て判断できる状態ではなく、また認知症が進んでいく経過も人それぞれです。
老人のみの世帯が増えている現状で、すぐに助けを呼べない人たちもいると思います。
今日はちょっと調子が悪かっただけ、あの人はいつもあんなふうだからと片付けてしまって見過ごされている場合も考えられます。
核家族が増え、地域との関わりも薄くなりがちな現代では、認知症に苦しんでいる人たちも埋もれがちになってしまっています。
そのことを踏まえ、各自治体でも様々な取り組みが始まっているのです。
大切なのは地域の人たちを巻き込み、見守る目を増やして、早期発見につなげられるシステムを準備すること、また、迷子札やGPSを利用した民間のシステムも多く活躍しています。
自治体、民間が力を合わせ認知症を持つ老人の徘徊トラブル防止に努めることができれば、地域の人たちにも、認知症を持つ老人にも安心・安全な社会づくりを実現できるでしょう。

参考記事
・高速道路における逆走の発生状況 (NEXCO東日本)
・令和2年における行方不明者の状況 (警察庁生活安全局生活安全企画課)
・認知症施策推進総合戦略 (新オレンジプラン)
・行方不明を防ぐ・見つける 市区町村・地域による取り組み事例 (厚生労働省)
・認知症高齢者の徘徊の実態 (愛知県 認知症高齢者の徘徊対応マニュアル)
・認知症の人の将来推計について
・高齢者の家族と世帯|平成29年版高齢社会白書(全体版)(内閣府)

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執筆:岸田 梨江(介護福祉士、管理栄養士)
知的障がい児支援に10年携わり、現在高齢者介護施設勤務
豊富な経験を基に様々な視点から情報を提供いたします。

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