「認知症バリアフリー」という言葉をご存知でしょうか?
「認知症バリアフリー」とは“認知症になってからもできる限り住み慣れた地域で普通に暮らし続けていけるよう、生活のあらゆる場面で障壁を減らしていく”ことを目的とし、2022年3月から「認知症バリアフリー宣言」という形でスタートしています。
この取り組みは、認知症高齢者人口の増加に伴い、認知症患者やその家族、そして地域社会全体のニーズに対応できるよう生まれました。
特に日本においては高齢化が進み、2025年には高齢者の約5人に1人が認知症になるといわれています。
認知症は、記憶力や判断力、認識能力などの認知機能が徐々に低下する病気であり、高齢者だけでなく40代、50代の比較的若い世代でも発症することがあります。
認知症患者やその家族が日常生活や就労における様々な困難を減らし、不安なく日常生活を送ってもらうために認知症バリアフリーが注目されるようになりました。
今回の記事では、認知症バリアフリーの概要や取り組み内容、影響などについて説明しています。
よかったら最後までご覧ください。
1.認知症バリアフリー宣言4つの基準
2019年4月に官・民約100にのぼる団体が「日本認知症官民協議会」を立ち上げ、2022年3月「認知症バリアフリー宣言」という形で始まりました。
この宣言は認知症患者やその家族が安心して暮らせる社会作りを目指し具体的な活動に結びつけられるように、宣言をするにあたって4つの宣言基準があります。
①社内の「人材育成」
従業員などに対して認知症につい ての正しい理解を促す活動を進めることにより、認知症患者やその家族のニーズやお困りごとをさらに理解し顧客満足の向上や新たな商品やサービスの創造につながります。
②行政、他業種などとの「地域連携」
地域包括支援センターや社会福祉協議会、認知症疾患医療センターなど地域の行政機関や専門機関、企業などと連携を図ることによって、認知症患者やその家族に適切な対応をすることができ、地域や当事者のニーズに即した対策を講じることが可能になります。
③認知症をサポートする「社内制度」
「社内制度」とは、企業・団体などにおいて介護のための離職防止や当事者が働き続けられるなど、働きやすい環境づくりを行うことです。
安心して継続的に働ける制度を整備することで、ワークライフバランス、企 業に対する信頼性が向上し、人材の確保、定着性の向上などが期待されます。
④お客さまが利用しやすい「環境整備」
「環境整備」とは、お客様や家族が利用しやすい店舗やWEBサイトなどの環境を整えることです。また、従業員がストレスなく働ける職場環境を整えることも目的です。
店舗や職場が整備されることで、誰もが安心して利用、就労できる環境が整い、顧客満足、従業員エンゲージメントの向上につながります。
これらの基準は大きな方向性を示してはいるものの、一律の基準は設けていないため宣言企業の業種・業態や目的・目標によって柔軟に設定できるようになっています。
そのため、企業によって宣言文言は異なっていますが基本的な理念は共通しています。
2.具体的な取り組み参考例
認知症バリアフリーの具体的な取り組みの参考例として、以下のようなものが挙げられます。
● 施設などの環境整備
店舗のレイアウトや動線などの安全性、掲示物の見やすさ、スロープや手すりの設置などハード面(有形)の整備のほか、優先時間帯やお客様を急かさないスローレジなどソフト面(無形)の取り組み、認知症サポーターの配置などもあります。
● スタッフの教育と訓練
認知症患者と接するスタッフに対して、認知症に関する正しい知識や適切な対応方法を教育・訓練することにより、認知症患者とのコミュニケーションやケアの質を向上させます。
● 地域社会の支援
関係機関や他企業などとの地域活動への参加・協力も必要です。(見守りネットワーク、徘徊通報・保護、 認知症カフェ、高齢者サポート事業者など)
認知症患者やその家族が地域社会で、より良い生活を送るための支援を提供します。
自治体においては、認知症バリアフリーの推進に積極的な取り組みが見られます。
例えば、自治体は地域の施設や公共の場所に認知症バリアフリーのガイドラインを策定し、改善していくよう関係者と協力して実施しています。
また、地域社会全体での認知症に対する理解と支援体制の構築にも力を入れており、自治体が認知症バリアフリーを推進することによって、認知症患者やその家族が地域社会でより良い生活を送ることが期待できます。
このように、認知症バリアフリーは認知症患者やその家族のニーズに応えるための重要な取り組みであり、今後も地域社会全体での協力と支援が求められています。
3.認知症バリアフリーの将来性や影響
認知症バリアフリーの普及が進むと、将来的に様々な変化や影響が予想されます。
● 認知症の理解の向上
認知症バリアフリーの取り組みが広まることで、認知症に対する理解が社会全体に広がり、偏見や誤解が少なくなっていくでしょう。
認知症に対する理解が向上することにより生活の質も上がり、高齢者や認知症患者、その家族がより安心して生活できることが期待されます。
また、認知症患者と家族が積極的に地域社会に参加しやすい環境を作ることもできます。
● 医療・介護の向上
認知症バリアフリーが広まっていけば、医療や介護の現場でもより適切な対応が行われるようになります。
スタッフが認知症に対する知識を深め、認知症患者とその家族に対し的確なニーズを把握することで、適切なケアを提供することにもつながります。
● 地域社会の結束の強化
認知症バリアフリーの推進には地域社会全体の協力が必要です。
地域住民や関係機関が協力し、認知症患者やその家族を支援するためのネットワークやサービスが強化されることで、地域社会全体の結束の強化につながり認知症患者やその家族が安心して生活できる環境が整います。
この他にも「認知症バリアフリー宣言」が与える影響を考えると、認知症バリアフリーの普及は、高齢化社会における認知症対策や地域社会の健全な発展にとって非常に重要な取り組みであると言えます。
● 徘徊症状がある方への影響は?
認知症を患う方の中には、徘徊(自宅や施設から離れて目的もなく歩き回ること)をする方がいます。
認知症バリアフリーの取り組みが、徘徊する認知症患者に与える影響について考えてみましょう。
● 安全確保
認知症バリアフリーによる環境改善により、徘徊する患者が安全に行動できる環境が整備されます。
例えば、施設や公共の場所では見やすい案内や迷子防止の仕組みが導入されることで、迷子になるリスク低減と徘徊に至ったとしても安全確保に期待ができます。
● 地域社会の協力
認知症バリアフリーの普及により、地域社会全体での認知症対策が強化されます。
地域住民や関係機関が協力し、徘徊する患者を支援するためのネットワークが整備され、GPS機器サービスなどがさらに普及することにより、迷子になった患者を早期発見、安全に自宅へ帰ることが期待されます。
● 家族や介護者の安心感
認知症患者が徘徊することは、家族にとって大きな心配事となりますよね。
徘徊してしまった認知症患者を発見する間に、事件や事故に巻き込まれる可能性もゼロではありません。
認知症バリアフリー宣言で地域全体で認知症患者を支援する体制が強化されることにより、介護をしているご家族がより安心して生活できる環境が整います。
以上のように、認知症バリアフリーの取り組みは、徘徊する患者やその家族にとって安全性や安心感を提供するとともに、地域社会全体での支援体制の強化に貢献しています。認知症バリアフリー宣言が普及することで認知症患者やその家族が安心して暮らせる社会が実現し、地域社会全体に良い影響を与えることが期待されます。
4.まとめ
認知症バリアフリー宣言において、認知症患者やそのご家族はもちろん、介護をしながら働いている方などにとっても、良い影響を与えることと思います。
しかし、みずほ情報総研の「認知症バリアフリー社会の実現等に関する調査研究事業報告書」「認知症バリアフリー社会」に関しての調査では、回答した7割がバリア(障壁)の解消が「難しい」と感じていることが分かり課題も残っています。
生活をする上でのバリアは大小様々ありますが、少しでもみんなが暮らしやすい社会になっていくことを今後期待していきたいです。
参考
株式会社イトーヨーカ堂 認知症バリアフリー推進の取り組みについて
社会保険研究所
太陽生命の「認知症バリアフリー宣言」
認知症バリアフリー宣言ポータル
→自治体のとりくみ
日本認知症官民協議会
執筆:腰塚 侑香里(介護福祉士)
介護福祉士としてデイケアで働きながら、介護職の楽しさを発信するためWEBライターとしても活動中。読みやすく分かりやすい文章を目指して頑張っています!