認知症徘徊コラム

認知症支援策である新オレンジプランと7つの柱とは?

 「新オレンジプラン」とは、厚生労働省が関係府省庁と共同策定した「認知症施策推進総合戦略」の略称です。
認知症高齢者等が住み慣れた地域で、自分らしく生活を送ることのできる地域・社会づくりを目指して2015年に制定されました。
2025年(令和7年)には団塊世代が75歳以上という時代を迎え、65歳以上の認知症患者が5人に1人と予想されています。
つまり、私たちにとって「認知症」という病気は、とても身近なものになっているのです。
認知症を患っても自分らしく生活ができるよう、新オレンジプランでは、7つの柱を立てそれに沿って支援・推進活動をしています。

 今回の記事では、新オレンジプランの中枢である7つの柱や、認知症に対する支援内容についてなど2部構成で説明しています。

● 1部では新オレンジプランの基本
● 2部は認知症カフェやサポーターの活動内容など

よかったら最後までご覧ください。

1.新オレンジプランとは?

 新オレンジプランのもととなる施策の歴史を見ていきましょう。

年次 内容
1982(昭和57)年 公衆衛生審議会
「老人性精神保健対策に関する意見」
2003(平成15)年 高齢者介護研究会
「2015年の高齢者介護~高齢者の尊厳を支えるケアの確立に向けて~」
2004(平成16)年 「痴呆症」から「認知症」へ用語変更
2005(平成17)年 認知症を知り地域を作る10ヵ年構想
2008(平成20)年 認知症の医療と生活の質を高める緊急プロジェクト
2012(平成24)年 認知症施策推進5か年計画 (オレンジプラン)
2015(平成27)年 認知症施策推進総合戦略~認知症高齢者等にやさしい地域づくりに向けて~ (新オレンジプラン)

地域で包括的なケアシステムを確立していく点においては、施策当初から一貫されています。

 次に「新オレンジプラン」について、制定した目的や背景、旧オレンジプランとの違いなどを説明していきます。

2.目的

 新オレンジプランの目的は、「認知症の人の意思が尊重され、できる限り住み慣れた地域のよい環境で自分らしく暮らし続けることができる社会の実現」です。
 従来では認知症になったら、本人の意思と関係なく、施設入所や精神科病棟への入院が当たり前になっていました。
しかし、認知症の症状は様々で、生活支援があれば今までと変わらない生活を送ることもでき、環境の変化による症状の悪化を防ぐことも可能です。

3.オレンジプランとの違い

 オレンジプランは、認知症施策推進5か年計画とも呼ばれており、平成25年度から29年度まで策定されました。
新オレンジプランは関係省庁と共同策定したものに対し、オレンジプランは厚生労働省のみで策定されたものです。

4.なぜオレンジカラーなの?

 なぜ「オレンジ」かというと、江戸時代に生まれた「柿色の赤絵陶器」が世界に広まったことから、日本の認知症への取り組みも、世界に広がってほしいと願ったことからオレンジになりました。
また、オレンジ色は「手助けします」といった意味を持っています。

5.認知症患者を支える新オレンジプラン7つの柱

 新オレンジプランの具体的な施策の中で、最も重要である7つの柱について説明します。

①普及・啓発の促進
 認知症は身近な病気であるとして、改めて社会全体で確認していくことが基本的な考えで、認知症本人が語る言葉を積極的に発信していきます。

【目標】
 認知症サポーター※数 800万人(2017年度末 旧プランでは600万人)
※認知症について正しく理解し、認知症の人や家族を温かく見守り、支援する応援者

【内容】
1. 認知症の理解を深めるためにキャンペーンを展開
2. 認知症サポーターの養成や支援・活動のサポートを推進
3. 学校教育において認知症の人を含む高齢者への理解の推進

②容態に応じた適切な医療・介護等の提供
 認知症の容態の変化に応じて、適時・適切に切れ目なく医療・介護等が提供される循環型の仕組みを実現していくことを基本的な考えとしています。

【目標】
 認知症初期集中支援チームの設置→2018(平成30)年度からすべての市町村で実施

【内容】
1.本人主体の医療・介護等の徹底
 認知症でも、本人の持つ力やその人らしい生活を継続支援していくことは、本人主体の医療・介護等の原則であり基本理念です。
あらためて、医療・介護等に携わる全ての人が共有することにより、医療・介護等の質の向上を図ります。

2.発症予防の推進
 認知症に対する研究が進むにつれて、認知症はある程度予防できることが明らかになっています。
発症を予防するためには、生活習慣の見直しや地域・社会活動が重要であり、住民主体で運営するサロンなどの取り組みを推進していきます。

3.早期診断・早期対応のための体制整備
 認知症は早期発見・早期対応により症状の進行を緩やかにすることが可能です。
医療機関などに相談しやすい環境の整備を目指します。

かかりつけ医はじめ
● 認知症専門医や認定医
● 認知症サポート医(※1)
の養成拡充のほか、新たに地域の歯科医・薬剤師の「認知症対応力向上」のための研修を実施します。

また、認知症疾患医療センター(※2)の整備、認知症初期集中支援チーム(※4)の市町村設置を推進し体制を整えます。

※1:かかりつけ医の認知症診断等に関する相談役等の役割を担う医師

※2:認知症の速やかな鑑別診断や、行動・心理症状(BPSD)と身体合併症に対する急性期医療、専門医療相談、関係機関との連携、研修会の開催等の役割を担う

※3:医療・介護の専門職が家族の相談等により認知症が疑われる人や認知症の人及びその家族を訪問し、必要な医療や介護の導入・調整や、家族支援などの初期の支援を包括的、集中的 に行い自立生活のサポートを行うチーム

4.行動・心理症状(BPSD)や身体合併症への適切な対応
 早期診断と本人主体の医療・介護等を通じて、BPSD(抑うつ・興奮・徘徊・妄想など)の
予防や的確なアセスメントと、薬によらない対応を第一選択とすることを原則とします。
また、認知症本人の心身の状態に応じて、適切な場所でサービスが受けられる仕組みづくりを推進。
医療機関や介護施設等での対応が、固定化されない仕組みをつくるのが目的です。

5.認知症の人の生活を支える介護の提供
 介護を担う人材の確保と育成のほか、介護サービスの質の向上を目的として、研修の充実を図ります。
また、新任の介護職員向けの認知症介護基礎研修の実施が新たに追加されました。

6.人生の最終段階を支える医療・介護等の提供
 人生の最終段階においても、本人の尊厳が尊重された医療・介護等が提供されるよう検討を進めます。

7.医療・介護等の有機的な連携の推進
 認知症地域支援推進員を「2018(平成30)年度からすべての市町村で実施すること」が目標。
認知症ケアパス(※4)を確立するとともに、サービスが切れ目なく提供されるような取り組みを推進しています。

※4:予防から人生の最終段階まで、生活機能障害の進行状況に合わせ、いつ、どこで、どのような医療・介護サービスを受ければよいのか、これらの流れをあらかじめ標準的に示したもの

③若年性認知症施策の強化
 65歳未満で発症する認知症を「若年性認知症」と呼び、就労や生活において大きな課題を抱えます。
普及啓発を進めると同時に早期発見・早期治療につなげ、本人や家族が交流できる居場所づくり等、若年性認知症の特性に配慮した支援の推進を図っていきます。

④認知症の人の介護者支援
 認知症の人の介護者への支援は、認知症本人の生活の質の改善にもつながります。
認知症カフェの設置や、介護ロボットの開発支援等により、介護者の精神的・身体的な負担を軽減しつつ、生活と介護の両立ができるよう推進していきます。

⑤ 高齢者にやさしい地域づくりの推進
1. 買い物や掃除などの家事、買物弱者への宅配サービス、サロンなどの設置推進
2. 住まい確保の支援やバリアフリー化の推進、公共交通の充実
3. ボランティア等の社会参加の促進
4. 地域での見守り体制等安全確保の整備
上記を中心に推進しています。

⑥認知症に関する研究開発
 認知症の早期発見や診断法の確立、根本的な治療薬や効果的な改善・予防法の開発につなげていきます。
また、介護者の負担軽減を目的とした介護用ロボットなどの研究開発、機器の支援普及なども実施。

⑦認知症の人や家族の視点の重視
 従来の認知症の施策は、支援する側の視点に偏りがちの内容でしたが、より深いニーズの把握や課題等を理解するには、本人や家族の視点が重要であるということを新プランで掲げています。
そして、他6つの柱に共通するプラン全体の理念でもあります。

6.「新オレンジプラン」の課題は認知度の低さ

 日本医師会総合政策研究機構と太陽生命保険が行った、5,000人を対象とした調査によると、「新オレンジプラン」を知っている人はわずか5.8%という結果になりました。
国民は「認知症の発症予防」に関心は高いものの、国家戦略として掲げている新オレンジプランは、広く周知されていないという課題が残っています。

7.まとめ

 今回は、新オレンジプランが制定された目的や、中枢となる7つの柱について説明しました。
第二部では、認知症本人や家族と近い存在である、認知症サポーターや認知症カフェについての役割や目的などを詳しく説明しています。
よかったら、そちらもご覧ください。
地域や行政、介護医療機関など、それぞれが役割を持ち、認知症で苦しむ本人や家族のサポートをするとともに、住みやすい地域にしていけると良いですね。

参考記事
・厚生労働省 認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)~認知症高齢者等にやさしい地域づくりに向けて~ (概要)
・公益財団法人長寿科学振興財団 第1章序論2.オレンジプラン・新オレンジプランの現状と課題
・日医総研ワーキングペーパー 認知症をはじめとする高齢者の健康に関わる アンケート調査分析(p28 図表 3-5-2)
・やまがた認知症カフェ通信 2016年7月号

https://www.ninchisho-haikai-gps.com/gps_rn/wp-content/themes/cure_tcd082/img/common/no_avatar.png

執筆:腰塚 侑香里(介護福祉士)
介護福祉士7年目の30代3児の母。介護職の楽しさを発信するためwebライターとしても活動中。大学卒業後、金融機関に就職するもやりがいを感じられず介護職に転職。デイサービス→結婚を機にリハビリ施設へ。介護士として毎日楽しく高齢者に寄り添いながら働いています。

関連記事