徘徊とは、国語辞典によると「あてもなく、うろうろとうろつきまわること」とされています。警察庁生活安全局生活安全企画課の発表によると、令和2年度に”行方不明の届け”があった認知症を持つ老人は17,565人、割合は22.8%。行方不明者の中で最も大きな割合を占めています。
令和2年における行方不明者の状況
しかし、認知症を持つ本人は自分が徘徊しているとは思っていません。
自分にとって何か大切な用事のために出かけていることが多いのです。
そのため、強く外出を止めるとひどく怒ったり、却って外出することにこだわってしまうことがあります。
「徘徊は困るから辞めてほしい」と本人に訴え、外出を制限するのは介護する側にも、本人にもストレスとなり、悪循環になりがちです。
1.うちの親は大丈夫?
「最近どうも認知症気味だけど、散歩や買い物は本人の習慣だから好きにさせてあげたい。」と考える家族の方も多いと思います。
しかし、認知症を持つ老人本人にとって、”道が分からなくなる”のはある日、突然、起こる出来事です。
「うちの親は大丈夫だろう。」と何も対策していないと、ある日、突然迷子になってしまうこともあり得ます。
一度迷子になり、大事になってしまうと、介護する側も徘徊に対して否定的な態度をとってしまいがちです。
しかし、認知症を持つ老人本人にとっては、”当たり前の日常が急に分からなくなったことが原因”なので、何に気を付けたらいいのか分からない.
なのに家族は自分を否定してくるという最悪な状況に陥ってしまいます。
家族にも本人にも余裕がある「まだ大丈夫だろう。」という時期から対策しておくことが大切です。
2.徘徊しても無事に帰ってこられるように迷子札・名札を活用しよう
認知症を持つ老人が迷子になっても無事であるために、もっともポピュラーな対策は”迷子札・名札”です。
”迷子札・名札”には通常
● 名前
● 住所
● 連絡先電話番号
を書いておくことが多いです。
そうすると迷子になった場合も、保護してくれた方が見て連絡してくれます。
「じゃあ、服の見えやすいところに名札をつけておけばいいのか。」
と考えるかもしれませんが、目立つところにあると本人が嫌がりますし、徘徊していない状況でも、個人情報を不特定多数に見られてしまうことになります。
かといって、あまり見つかりづらいところにあると、せっかく迷子札・名札があっても保護してくれた人に見つけてもらえず、連絡が来ないということもあり得ます。
洋服の裾や裏といった、本人が気になりにくいところへ、アイロンプリントなどで名札を貼り付けておくといいでしょう。
それでも、気になる場合は、外出の際本人が必ず持ち出すもの、例えば、杖、帽子、普段使いの鞄や靴などがあれば、アイテムのほうに迷子札・名札を付けることが効果的です。
近年ではお守りやアクセサリー風の迷子札・名札もあります。
できるだけご本人の嫌がらないポイントを押さえ、迷子札・名札を付けることができれば効果的な迷子対策になるでしょう。
3.名札だけでは不十分な時もGPSを活用して対策を万全に
しっかり迷子札・名札を活用しても、出ていった時間帯が、早朝や深夜のあまり人がいない時間帯であったり、人気のないところへ行ってしまった場合は迷子になってしまいます。
迷子札・名札は人が見てくれることを前提としたアイテムなので人に見てもらえないシチュエーションでは効果がありません。
その点当社のGPSには
1. 本人の徘徊ルートを追跡できる
2. 現在地をピンポイントで把握できる
3. 目立たないのでプライバシーを保護できる
といったメリットがあります。
以下ではそれぞれについて解説します。
1.本人の徘徊ルートを追跡できる
〇分間隔で計測するといった設定をしておくと〇分間隔で本人の居場所が自動的に計測されます。
そのため、家族が近くに住んでいなくても、履歴によりどのようなルートで徘徊するかパターンを把握することが可能です。
2.現在地をピンポイントで把握できる
どこに行ったか見当もつかない場合、GPSの信号をキャッチできれば現在地を知ることができ、捜索範囲を限定することができます。
3.目立たないのでプライバシーを保護できる
GPSは小型です。また、GPSに個人情報が直接書かれているわけではないのでプライバシーを保護することができます。
4.GPSではなくてもケータイで代用できるのでは?
少し以前の統計となっていますが、総務省によると70代でのスマートフォン保有率は13.1%、80代は3.3%となっています。
総務省|平成29年版 情報通信白書|数字で見たスマホの爆発的普及(5年間の量的拡大)
まだまだ高齢者のスマートホンの普及には時間がかかる事が予想されます。
GPSの機能はガラケーでは制限されることが多いので、スマートフォンでないと十分にパフォーマンスが発揮できません。
しかし、老人は慣れ親しんだものを好んで使うため、本人が必要だと思っていないのにスマートフォンを普段持ち歩いてもらおうというのは、本人にとっても家族とっても非常にストレスです。
それがGPSだったらスマートフォンよりも小型なので、持ち歩いてもらうための工夫がしやすくなっています。
自然に持ち歩いてもらうために、普段使いの鞄に入れる、大きめの袋に入れてキーホルダーかお守りのようにする、専用の靴にセットする等の工夫が一般的です。
5.まとめ
認知症を持つ老人の徘徊は増加し、社会問題にもなりつつあります。
徘徊による迷子は決して他人事ではないのです。
昨日まで何とか一人で暮らしていた人も、薬が変わった、引っ越しをした、強いストレスを受けたなどの理由がきっかけで認知症が加速し徘徊してしまうことがあります。
できれば、余裕のあるうちに本人と相談し、迷子札・名札の取り付けや、自然にGPSを持ち歩いてもらうための対策を講じることが今後の安心・安全につながるでしょう。
執筆:岸田 梨江(介護福祉士、管理栄養士)
知的障がい児支援に10年携わり、現在高齢者介護施設勤務
豊富な経験を基に様々な視点から情報を提供いたします。